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ソラアキラ

イベント名 開催日 会場
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Review(1)

05/15 12:28

ワンダーランド北朝鮮 のレビュー 

試写会&監督会見に行って来ました!(一部ネタバレありです。ご注意ください)

プロパガンダか?それとも本当か? チラシのキャッチの問いに答えるなら、「どちらの映画でもある」が私の感想です。つまり、プロパガンダVSリアルの攻防です。

本作に登場する家庭、人物、娯楽施設、工場、保育園他、すべて「当局が用意したリストから私が選んだ」(監督談)そうです。つまり、海外メディア取材対応用に、日頃から鍛え抜かれた面々が登場する映画であることは、もう大前提の作品です。

ですが、その撮影する先々で、北朝鮮のリアルがちょこちょこと露呈されるんですね。そこがとっても「リアル」な部分なのです。

例えば、縫製工場。責任者はインタビューに答え、「労働時間は朝7時から、夜七時あたりまで、ランチタイムは2時間ね」と、にこやかに発言。これ、立派にブラックなのだけど、あちらではこれが常識。なにせ当局お墨付き工場がこうなのですから、他は推して知るべしです。つまり世界標準のアウトがセーフなままの「北のリアル」がこのように顔を出してきます。

また、責任者はさらに、「成果物(衣類)は、中国経由で米国(国名をちゃんと言っていました)や~~などに納品」と、まさかの経済裏事情の「リアル」も暴露。「中国製というタグの衣類には気を付けなさい」というメッセージでしょうか?(笑)
ちなみにこのシーンを巡っては、「当局からカット要請が来たが完成後なので、お金がかかるよと脅したら、諦めた」そうです(監督談)。

そして泣けるシーンです。

本作では、明らかに上流家庭と思われるひとつの家族と、「中の上クラス」と思われる家族の2家庭を訪問しています(たしか)。泣けたのは、「中の上クラス」の家庭の奥様に監督がインタビューしたシーンです。

終始にこやかな表情で、夫との出会いなどをよどみなく語っていたきれいな顔立ちの奥様(この辺はプロパガンダ)ですが、「あなたの夢は?」と聞かれると、しばし沈黙…。にこやかな表情にもうっすら苦悶がよぎります。

おそらくこの質問、台本(当局に事前にインタビュー事項を出しているはずなので)にない、監督のアドリブだったのでしょう(監督の攻めですね)。微妙に間があいて、奥様はやっとこう答えます。

「昔は…、舞台に立つのが、夢でした」。

夢を思い描くことなんてずっと忘れていた、と言いたげな言葉、表情でした。
中高年や高齢者が、夢を即答できる国。
きっとそんな国がほんとうの意味で、幸せな国なのでしょう。

一方、前出の若い工員女性は、即答でした。「いつか独創的な服を作って世界中の人にきてもらいたい」というのが彼女の夢。
でも監督が「デザイナー(日本語とほぼ同じ発音)になりたいのね?」とハングルで聞くと、女子工員は「デザイナーって何?」と聞き返します。監督が説明し、「あ、設計家ね」と工員は理解します。この言葉における南北の差にも、2国家間の歴史の「リアル」が感じられます。

監督はきっと、予定調和な映画になるのは覚悟していたと思います。なにせ相手は優等生発言しか許されていないのですから。その間隙を縫って、いかにリアルを切り取るか。そんなプロパガンダVSリアルの攻防が、散りばめられた作品でした。