News ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇

2023/03/09
映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』解説

「幽霊船」と訳される『ゴースト・フリート』に登場するトゥン・リンさんはじめ、インドネシア沖で漁船での労働を強いられた経験を持つ人たちにLPNでインタビューしたことがある。一日3、4時間の睡眠、仲間内の喧嘩、将来を悲観して自殺を図る者、助ける者、船内での暴力や喧嘩、殺人、それぞれ壮絶な経験をぽつりぽつりと話してくれた。私は質問をした。「日常の食事はどうしていたの?捕獲した魚を食べていたの?」と。(こいつ、何もわかっていないなあ)という呆れた表情とともに柔らかな笑みで男性は「捕獲した魚は、アメリカや日本など先進国に送られているんだよ」と答えた。私は自分の浅はかさを恥じた。語ってくれた人は、安さと豊満なシーフードを貪る先進国の消費者である「私たち」に供給するための魚を捕るために強制労働をさせられていたのだ。

「逃げて帰国することは考えなかったの?」との質問には「そりゃ考えたさ。でも泳げないし、たとえ船長を殺したとしても船を操縦できないし海図も読めない。自分がどこにいるのかもわからない。どうやって帰ればいいかわからなかった」と今度は苦渋の表情を浮かべて答えた。生きて帰国できる希望さえ失いかねない深刻な状況だったのだ。

 話し手の一人だったトゥン・リンさんは、魚網に絡んで利き手の右手の指をもぎ取られた時、痛みと絶望で死ぬことを考えたと語った。その後、陸に上がって病院で治療を受けることができ、もう漁船で働かずに済むだろうと安堵する間もなく、再び漁船に戻された。度重なる絶望の末、海に飛び込み、なんとか陸地に泳いで辿り着き、ジャングルに数日潜み、その後、島の村を尋ね、食を乞うた。トゥン・リンさんは、助けてくれたインドネシアの家族のためにバイクタクシーの運転手としてインドネシア語を使って働いていた。2015年の3月、タイから来たパティマさんらに出会い、帰郷を果たした。15歳でミャンマーの故郷を出て、生きるために習得したタイ語やインドネシア語は、映画でわかるように他者を助けるための重要な手段となった。

タイのIUU規制とL P N

タイの水産業および水産加工業は世界に誇る一大産業だ。マクドナルドのフィレオフィッシュも、アラスカから運び込まれタイ工場で成形されて世界中に輸出されている。日本でも見かけるツナ缶や冷凍シーフード、そしてキャットフード缶詰の多くもタイで加工されている。バンコクの西にあるサムットサーコン県には輸出向けの水産加工工業が立ち並んでおり、労働者不足を補うように80年代以降ミャンマーからの移民労働者が増加した。ミャンマーからの移民は、経済格差があるミャンマーからタイに就労目的でやってくる人ばかりではなかった。1988年のミャンマー軍事クーデターから逃れてきた人、ミャンマー軍事政権の圧政を逃れてきた少数民族の人々、大規模開発計画による立ち退きで生計手段が奪われた人々など政治的、社会的な軋轢による生活苦から新天地を求めてきた人たちも少なくない。
 そのサムットサーコン県に、移民労働者の子どもたちの教育支援を行うためにパティマさんと彼女の夫ソンポンさんは一緒に2004年にNGOの労働権利推進ネットワーク(LPN)を設立した。設立当初の活動は移民の子どもたちの教育支援だったが、次第に移民労働者たちの相談が増え、未払い賃金交渉や病気や怪我などの労災など移民労働者の権利のための支援に拡大していった。活動は、移民労働者とその家族の支援だけでなく、公立学校や企業での人権啓発活動にも積極的に広がった。

ソンポンさんによれば、2010年以降、インドネシア沖でのタイ船籍の漁船の強制労働を経験しなんとか帰国したミャンマー人やタイ人から、帰国したくでもできない同胞を助けて欲しい、との要望が複数寄せられたという。報道もされていないインドネシア沖で何が起きているのか、2015年3月に特別寄付を募ってパティマさんとソンポンさんらLPNとジャーナリストは、とにかくアンボン島とベンジナ島に行った。そして、監禁されていた複数の元漁船乗組員らを発見し、救出に努めた。2015年3月から9月までの6ヶ月間にインドネシア沖の島から5000人以上が救出され、出身国に帰国した。
 このニュースは、欧米中心に大々的に報じられた。EUは、それまでタイから年間50億ユーロの水産物を輸入していたが、違法・無報告・無規制を意味するIUU対策が改善されなければ取引を停止するとのイエローカードを2015年4月に発出した。また、米国国務省は毎年各国の人身取引対策を評価、発行している「人身取引年時報告書2015」(2015年7月)においてタイ政府のタイ漁船での強制労働という人身取引対策を厳しく批判し、経済制裁発出可能な最低ランクの第三階層と評価した。

こうした国際的な評価はタイ水産業・水産加工業輸出に大きな打撃を与え、プラユット首相に早急な対策強化に迫った。タイ政府はIUU問題解決のため、2015年8月に7つの政府機関 が相互協力と情報共有を促す内容の覚書を交わし、同年11月にIUU対策を強化する漁業法を制定した。さらに2019年1月にILOの漁業労働条約(第188号)を批准し、同年10月にはビジネスと人権国別行動計画を発表した。どちらもアジア初の先進的な対応だった。E Uはこうしたタイ政府の国内外の取り組みを評価し、2019年11月にイエローカードによる警告を解除した。

元漁船労働者の帰国後の困難

しかし、タイ政府のIUU規制や労働者の人権保護が進んでいるが、これまで長期間漁船での低賃金もしくは無報酬の労働を強いられ、そこから逃亡しても帰国できずにいる人々やトラウマを抱えて社会再統合を果たせない人の公的な救済は皆無に近い。タイは2008年に人身取引禁止法を制定しているが、インドネシア沖の奴隷労働から帰国した労働者で人身取引被害者と認定された人は僅少だ。人身取引被害者としての支援はなく、未払い賃金や慰謝料は搾取された本人が、就労を証明する書類を揃えるなど煩雑な手続きをして会社に請求しなければならない。LPNに支援されて未払い賃金や慰謝料を得た人もいるが、煩雑で長期の交渉を要するため請求を諦める人も多い。

長期間の暴力や強制労働による深い心身のトラウマで帰国後の生活再建が困難になっている人たちは少なくない。トゥン・リンさんをはじめ、元漁船労働者のミャンマー人やタイ人らは、映画制作の後もLPNのスタッフ、仏教僧、農民従事者として社会生活を送りながら、元漁船乗組員で奴隷労働経験者の相互扶助グループをLPNの支援で立ち上げ、弱っている同僚を見舞って励まし、機会がある毎に、海での奴隷労働の現実をパティマさんとともに伝え歩いている。

パティマさんの眼差しと私たち

ところでパティマさんは映画で、彼らのことを友であり、家族のようだと語り、一人の人に生み育てた家族があり、故郷があることを尊重し、帰国できない事情を持つ人々の意思を尊重し、命を落とした同胞らに鎮魂の祈りを捧げ、深い人間愛の眼差しを向けていた。

齋藤百合子
大東文化大学国際関係学部特任教授。人身取引問題や大学のフィールド教育を通して学生と共にLPN等で被害者らの語りを聞いてきた。関連する論文は「メコン地域における人身取引対策の課題 -タイの労働搾取型の人身取引への対応」『明治学院大学国際学研究』第49号(2016年)。ほかに論文や書籍(共著)など多数。

2023/01/17
東京新聞 SDGsアクション! 「海を考える~映画『ゴースト・フリート』上映会&トークセッション」

映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』特別協力団体 WWFジャパンのスタッフが登壇する上映会をお知らせします。 https://www.tokyo-np.co.jp/ghostfleet

日時 2月17日(金)
18時30分~ (開場18時) ※21時終了予定
会場 東京新聞本社(日比谷中日ビル)1Fホール
 
東京都千代田区内幸町2-1-4
料金 800円(税込)
主催者 東京新聞(中日新聞東京本社)、WWFジャパン

国連のSDGsの目標14は「海の豊かさを守ろう」。

地球温暖化やマイクロプラスチック汚染など、さまざまな形で海の豊かさは脅かされています。乱獲など、違法な漁業も原因の一つ。安さを求める消費社会のニーズが背景にはあり、私たちの生活ともかかわりがあります。
「ゴースト・フリート」は英語で「幽霊船」。このドキュメンタリー映画は、水産国タイでだまされたり、拉致されたりして漁船で働く「奴隷労働者」の実態と、救出に奔走する女性たちの姿を追っています。

映画の上映とあわせ、WWF(世界自然保護基金)ジャパンの海洋水産グループの植松周平マネージャーや滝本麻耶さん、北陸中日新聞で持続可能な漁業の年間キャンペーンを担当する報道部の前口憲幸記者のトークセッションも予定しています。海を考え、想う一日にしませんか?

→お申し込み・詳細はこちら https://www.tokyo-np.co.jp/ghostfleet

2022/12/16
映画『ゴースト・フリート  知られざるシーフード産業の闇』個人観賞用DVD発売開始!

映画『ゴースト・フリート  知られざるシーフード産業の闇』個人観賞用DVDを本日12月16日(金)発売致しました!

映画『ゴースト・フリート  知られざるシーフード産業の闇』個人観賞用DVD
価格:4,400円(税込) 送料370円(税込)*日本国内に限る

▼ご購入はこちら!
https://www.cinemo.info/107d1i

※個人観賞用DVDは、ご家庭などでお楽しみいただける個人観賞用DVDとなります。
 上映会の開催は出来ません。

▼上映会開催をご希望の方はこちら!
https://www.cinemo.info/107j

あなたの買った魚は奴隷が捕ったものかもしれない。

騙され、拉致され、「海の奴隷」として漁船で働かされる男たち(ゴースト)。

彼らを救うべく一人のタイ人女性が命がけの航海へと漕ぎ出していく──

■映画概要

奴隷労働5年、7年、12年…
今日も東南アジアの海で「海の奴隷」が私たちの食卓に並ぶ魚を捕っている。

あなたの買っているシーフードやペットフードは「海の奴隷」が捕ったものかもしれない。信じられないかもしれないが、現代にも奴隷が存在しており、世界有数の水産大国であるタイには、人身売買業者に騙されるなどして漁船で奴隷労働者として働かされている「海の奴隷」が数万人存在するといわれている。日本は決して無関係ではない。タイの水産物輸入で世界第二位の日本は、タイからツナ缶、エビ、そして養殖用の魚粉などを輸入しているが、キャットフードに至っては約半分がタイ産だ。安価な水産物の裏で犠牲になっているのがタダ同然または無給で働かされている「海の奴隷」の存在だ。

彼らを救い、奴隷労働を終わらせるためパティマ・タンプチャヤクル(2017年ノーベル平和賞ノミネート)たちが命がけの航海へと出発する。タイの漁業会社は何千キロにも及ぶ遠洋漁業に乗船させる船員確保のため、人身売買業者から奴隷労働者を得ている。人身売買業者はタイやミャンマー、ラオス、カンボジアなど貧困国から集めた男性たちを、たった数百ドルで漁業会社に売り飛ばす。「いい仕事がある」と漁業以外の仕事で誘惑され拉致された人々は、数ヶ月や酷いと何年も下船することなく「海の奴隷」として働かされる。パティマ・タンプチャヤクルや自身も11年間奴隷労働した経験のあるトゥン・リンたちは、脅迫など数々の困難に直面しながら、タイの漁業会社の漁船からインドネシアの離島に逃げた男性たちを救出するために命がけの航海へと漕ぎ出していく。

監督:シャノン・サービス、ジェフリー・ウォルドロン
プロデューサー:ジョン・バウアマスター、シャノン・サービス
配給:ユナイテッドピープル
90分/アメリカ/2018年

2022/09/26
NHK クローズアップ現代で紹介予定

本日9月26日放送のNHK クローズアップ現代で、映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』及び、映画で登場するパティマ・タンプチャヤクルさんが紹介される予定です。ぜひご覧ください。

食卓の向こうに“闇”がある 追跡!シーフード産業の実態
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/R7Y6NGLJ6G/episode/te/1ZVRZGQV95/

初回放送日: 2022年9月26日

2022/09/01
映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』年間ライセンス対象作品に!(2022年10月以後)

あなたの買った魚は奴隷が捕ったものかもしれない。

騙され、拉致され、「海の奴隷」として漁船で働かされる男たち(ゴースト)。

彼らを救うべく一人のタイ人女性が命がけの航海へと漕ぎ出していく──

映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』2022年10月以後開催の上映会についても年間ライセンス対象作品になります!

ぜひ、上映会開催をご企画ください。
https://www.cinemo.info/107j

年間ライセンスについて
https://www.cinemo.info/upc.html

※ただし劇場公開のある都道府県では劇場公開終了まで上映頂けません
▼劇場上映スケジュールはこちら
https://unitedpeople.jp/ghost/scr

■映画概要

奴隷労働5年、7年、12年…
今日も東南アジアの海で「海の奴隷」が私たちの食卓に並ぶ魚を捕っている。

信じられないかもしれないが、現代も奴隷が存在し、世界有数の水産大国であるタイには、人身売買業者に騙されるなどして漁船で奴隷労働者として働かされている「海の奴隷」が数万人存在するといわれている。日本は決して無関係ではない。日本はタイの水産物輸入で世界第二位で、ツナ缶やエビなどを輸入している。キャットフードの約半分はタイ産だ。安さの裏側で犠牲になっている人々が存在する。本作は、タイの漁船から離島に逃げた人々を捜索し、救出すべく命がけの航海に出るタイ人女性、パティマ・タンプチャヤクル(2017年ノーベル平和賞ノミネート)たちの活動を追う。奴隷労働5年、7年、12年──。ミャンマー、ラオス、カンボジアなど貧困国から集められ、売り飛ばされた男性たちをパティマたちは救うことが出来るだろうか?

監督:シャノン・サービス、ジェフリー・ウォルドロン 
プロデューサー:ジョン・バウアマスター、シャノン・サービス
配給:ユナイテッドピープル
90分/アメリカ/2018年/ドキュメンタリー
https://unitedpeople.jp/ghost/

上映者募集中!
https://www.cinemo.info/107j

2022/06/08
新作追加『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』8月より上映可!

2022年8月1日より、映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』が1日ラインセンスで上映頂けるようになります。
ぜひ、上映会開催をご企画下さい。
https://www.cinemo.info/107j
※ただし劇場公開のある都道府県では劇場公開終了まで上映頂けません
▼劇場上映スケジュールはこちら
https://unitedpeople.jp/ghost/scr

あなたの買った魚は奴隷が捕ったものかもしれない。

騙され、拉致され、「海の奴隷」として漁船で働かされる男たち(ゴースト)。

彼らを救うべく一人のタイ人女性が命がけの航海へと漕ぎ出していく──

奴隷労働5年、7年、12年…
今日も東南アジアの海で「海の奴隷」が私たちの食卓に並ぶ魚を捕っている。

信じられないかもしれないが、現代も奴隷が存在し、世界有数の水産大国であるタイには、人身売買業者に騙されるなどして漁船で奴隷労働者として働かされている「海の奴隷」が数万人存在するといわれている。日本は決して無関係ではない。日本はタイの水産物輸入で世界第二位で、ツナ缶やエビなどを輸入している。キャットフードの約半分はタイ産だ。安さの裏側で犠牲になっている人々が存在する。本作は、タイの漁船から離島に逃げた人々を捜索し、救出すべく命がけの航海に出るタイ人女性、パティマ・タンプチャヤクル(2017年ノーベル平和賞ノミネート)たちの活動を追う。奴隷労働5年、7年、12年──。ミャンマー、ラオス、カンボジアなど貧困国から集められ、売り飛ばされた男性たちをパティマたちは救うことが出来るだろうか?

監督:シャノン・サービス、ジェフリー・ウォルドロン 
プロデューサー:ジョン・バウアマスター、シャノン・サービス
配給:ユナイテッドピープル
90分/アメリカ/2018年/ドキュメンタリー
https://unitedpeople.jp/ghost/

▼映画『ゴースト・フリート  知られざるシーフード産業の闇』上映詳細&上映申込みページ
https://www.cinemo.info/107j

《上映料金》 
◎1日ライセンス・・・最低保障料金55,000円(税込)
※ただし動員人数×550円(税込)が最低保障料金を上回る場合は、動員人数×550円(税込)
※1日毎に料金が発生します。
※同日、同会場(同敷地内)であれば、1日の間で何度でも上映可能です。
※入場料(参加費)の有無に関わらず、動員人数で上映料金を精算します。

《宣伝材料》
ちらし 1セット(B5 100枚) 880円 (税込)
ポスター1セット (B2 3枚)1,100円 (税込)

※ちらし、ポスターとも買取り

《上映素材》
DVD / ブルーレイ / オンライン
※オンラインの場合送料はかかりません

《送料》
全国一律520円(税込)