捕鯨でも、反捕鯨でもない、どっちつかずのいい映画だ!イルカ漁を巡って太地の港を右往左往する人間たちのコメディ。「クジラやイルカが絶滅寸前だと議論をしているが、こんな小さな町こそ絶滅危機にある」というアメリカ人ジャーナリストの科白が光る。
―――ビートたけし
日本におけるクジラ・イルカ漁の問題は、尖閣や拉致問題と同様にナショナリズムの問題になっている。だからこそ政治は硬直する。硬直に抗するためには、多様な視点を知ることが必要だ。様々な視点と視線が幾重にも折り重ねられながら、映画はあなたを新たな視点へと導くはずだ。
―――森達也 (映画監督・作家・明治大学特任教授)
分かり合えないからこそ、向き合うべき時がある。
感情の「壁」が立ちはだかる現代を、「おクジラさま」が飛び越える。
海からやってくる「奇跡」の予感。
―――茂木健一郎 (脳科学者〕
アフリカの辺境の地でも、すでに起き始めているグローバリズムとローカリズムの衝突。いいことも、わるいこともある中で、自分なりにそれを”考えてみること”を提案してくれる映画です。
―――ヨシダナギ(フォトグラファー)
About the film
紀伊半島南端に近い和歌山県太地町は、人口約3000の小さな漁師町。2010年、この町が一躍世界の注目を浴びた。町で行われているイルカの追い込み漁を批判的に描いたドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』がアカデミー賞を受賞したのだ。以来、「クジラの町」として400年の捕鯨の歴史を「誇り」にもつ太地町は、イルカやクジラを保護したい海外の活動家たちからの集中非難の的となる。2010年秋、過激な抗議活動で知られるシーシェパードのメンバーが太地町に降り立ち、小さな漁師町が国際紛争の舞台となった時から、物語はスタートする。
マスメディアが報じてきた二項対立 ―捕鯨を守りたい日本人とそれを許さない外国人― という単純な図式ではなく、賛否にとらわれない多種多様な意見をカメラは捉えていく。歴史・宗教・イデオロギーの違いや、自分と相容れない意見や価値観を持つ他者との共存は果たして可能なのか?日本の小さな漁村で起きている衝突を通して、世界が今直面しているグローバリズムとローカリズムの対立、そして「ダイバーシティ~多様性の危機」を描き出す。
2010年大ヒットした映画「ハーブ&ドロシー」の佐々木芽生監督が6年がかりで制作した本作品は、2018年夏、アメリカでも劇場公開されて大きな話題を呼んだ。
More info
2010年9月、過激な抗議活動で知られるシーシェパードのメンバーが、黒いドクロマーク付きのTシャツを来て太地町にやってきた。彼らは、メディアをうまく使って世界で最も成功している環境NGOの一つ。南氷洋で日本の調査捕鯨船に体当たりしては新聞やテレビを賑わせ、彼らの「英雄行為」に対して数億円単位で寄付金が集まる。
太地町では12隻の船でイルカや小型クジラを湾に追い込み捕獲する。活動家はその様子をビデオや写真におさめ、ネットで配信。すると非難のメッセージが町役場や漁業協同組合に殺到し、欧米の活動家が抗議に駆けつける。国内外の報道陣が集まり、地元の政治団体が街宣車のスピーカーから片言の英語で活動家たちに脅しをかける。この状況を打開できないかと、太地町代表者と外国人活動家の対話集会が町の公民館で開かれるも、お互いの意見は決して交わらないことを確認するだけだった。
2014年秋、太地町の状況はさらに悪化していた。追い込み漁の季節になると、大勢の活動家が大型バスで乗り付ける。地元では警察、海上保安庁、時には機動隊まで出動して警戒体制が敷かれる。今や TAIJIの名は、「イルカ殺しの町」として世界の隅々まで知れ渡り、ソーシャルメディアなどを通じてネット上で罵詈雑言が拡散している。
絶望的にみえるこの状況の中で、一人のアメリカ人ジャーナリスト、ジェイ・アラバスターと出会う。彼は太地町に住み込み、公平な立場で町や人々を理解しようと奔走するが・・・
マスメディアが報じてきた二項対立 ―捕鯨を守りたい日本人とそれを許さない外国人― という単純な図式ではなく、賛否にとらわれない多種多様な意見をカメラは捉えていく。歴史・宗教・イデオロギーの違いや、自分と相容れない意見や価値観を持つ他者との共存は果たして可能なのか? 太地町で起きていることは、今まさに世界が直面しているグローバリズムとローカリズムの対立、そしてダイバーシティ(多様性)の危機と重なる。
インターネットとソーシャルメディアを通じて、一瞬にして情報が拡散す時代に、私達はどう世界と対話して行くべきなのか。
Data
原題 |
A Whale of A Tale |
製作年 |
2017年 |
製作国 |
日本・アメリカ |
制作 |
FINE LINE MEDIA JAPAN |
配給 |
エレファントハウス |
時間 |
96分 |
Cast & Staff
監督 |
佐々木芽生 |
製作総指揮 |
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プロデューサー |
佐々木芽生 |
原作 |
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脚本 |
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音楽 |
デビット・マズリン |
撮影 |
笠原 貴/杉岡 太樹 |
編集 |
バーナディン・コーリッシュ |
キャスト |
ジェイ・アラバスター
三軒一高
リック・オバリー
スコット・ウエスト
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上映者の声
上映会を主催された方の声を紹介します
第165回海洋フォーラム(2019年8月7日)開催のご報告
2019年8月7日(水)に笹川平和財団ビル11階国際会議場にて、笹川平和財団海洋研究所主催第165回海洋フォーラム「『おクジラさま ふたつの正義の物語』上映会」を開催し、約160名のみなさまにご参加頂きました。今回の上映会は、2019年7月4日に笹川平和財団海洋政策研究所が財団役職員向けに開催した上映会が好評を博したことを受けて、急きょ開催されたものです。ご参加頂きましたみなさまには、厚く御礼申し上げます。
上映終了後にお寄せ頂きましたアンケートでは、「中立を心がけたいいドキュメンタリーだった」や「太地町という目線だけでなく、意見の対立、日本の(情報)発信力など色々な視点で考えさせられるテーマで興味深かった」、「報道やメディアについて、多々考えさせられる内容・企画だった」といった感想が寄せられました。
今後も月例で開催する海洋フォーラムに加えて、このような映画の上映会といったさまざまな海洋に関する情報発信を進めてまいります。ご興味・ご関心がございましたら、ぜひ当研究所のウェブサイト(https://www.spf.org/opri/)をご覧下さい。
今回はだいぶ小規模の上映となりました。
しかしその分、感想や意見のシェアの時間がより濃密になり、活発な意見交換が行われました!
参加者の方どうしもとても仲良くなり、人と人が繋がる瞬間を作ることができたなぁと感慨深いです。
おクジラさまは、正義と正義の対立の話なので、対話や理解といったことがやはり大切になるなと、改めて深く感じざるを得ない、見れば見るだけ深みを増す映画でした。
様々な価値観がある中、その相違が時に人間同士の憎しみや争いに変貌する時があります。例えば今回の映画の内容のような、一方は生きるため生活のために、一方は環境の中での共存のために。食べるというそれぞれの行為に善悪という意味ををつけた瞬間にそこには何かしらの命の「差別」が生まれます。作中に「安全な鶏肉」という表現がありました。これは命を「区別」している表現です。活動家は自身の過去の行為への贖罪のために今を生きると言っています。自身の贖罪のために生活者を口汚い「差別」的表現で呼ぶ場面もあります。自身の正義のために自分に都合の良いものは「区別」し、都合の悪いものは「差別」する。ここに何の解決があるのでしょうか。価値観の多様性とは「区別」と「差別」の狭間で揺れ動くセンシティブなものだと改めて実感させる映画でした。
ドキュメンタリーと固い内容のわりには色々な世代にきていただけました。次回の上映も期待されましたので、たくさんの人に観ていただけるよう少しずつ周知を広めていきたいです。
その人の住む町と政治的環境や、その他の環境において、いろいろな問題があることがわかりました。
参加者の感想では、そこに住む人を尊重し、世界との関わりを取り入れるよう話し合うべきだと感じた。特定の側だけに頼らず、いろんな意見を取り上げられていて、おもしろかった。という意見がありました。しかし、地元の方がしゃべっている言葉が聞こえにくかったこともあり、それぞれの、思いの掘り下げが今ひとつの感があり、どちらかというと、もやもやと煮え切レ廷内と思いましたが、これが、まさに二つの正義だと思われました。
広告を一切かけることなく、目標の集客数に余裕で到達。
やはり時期もあり、大変注目が集まるテーマなのでしょう。
ディスカッションタイムにはたくさんの意見が飛び交い、それぞれの考えを深め合っていました。
多様な立場にしっかりと寄り添っていくこの映画は押し付けがましさも何かの答えの提示も感じることなく、ただ淡々と、問題の本質について問いかけてくるようなものを感じました。
非常に評価されるべき作品で、上映会に申し分ない傑作といえると思います。