2021ウナギネマvol.12『ナディアの誓い - On Her Shoulders』
2021ウナギネマvol.12『ナディアの誓い - On Her Shoulders』
自身の壮絶な体験を語ることによって、
平和への歩みを呼びかけるナディア・ムラドさん。
彼女は2018年にノーベル平和賞を受賞しました。
彼女の暮らすヤジディ教徒の村をISISが包囲します。
イスラム教への改宗を強要するが信心深い人々は当然拒否。
ISISは、若い女性と幼い男の子以外を虐殺しました。
幼い男の子は洗脳してゆくゆくは自分たちの戦闘員に育てます。
若い女性は性奴隷として扱われることに。
奴隷は人とはみなされません。
イスラム教では、結婚する前の性交渉が認められていません。
ISISは、新しく兵士となる若者をひきつける材料として彼女たちを利用。
ヤジディの女性は人間ではないので罪にはならないと。
女性の尊厳を踏みにじる行為であるとともに、
少数派の宗教に対しての明らかな迫害です。
ナディアは声を上げました。
しかしメディアは興味本位の取り上げ方ばかり。
「どのようにレイプされたのか」
「あなたはどうしたいのか」
彼女が訴えたいのは、彼女個人のことではありません。
これからヤジディはどうしていくのか。
いま難民キャンプでは何が起きているのか。
自分のためにではなく、多くの仲間の未来のために彼女は立ち上がったわけです。
まるでジャンヌダルクのような存在のナディア。
彼女への風当たりは想像を絶する強さだったでしょう。
それは敵だけでなく、味方の方からも吹いていたはずです。
それでも自分の意思を貫いた彼女は本当に強い。
その彼女に対して、国連やカナダの議会が「ありがとう」と感謝します。
これは私たちの日本ではまずできないことでしょう。
人々を救うために宗教はあるはずです。
それなのに世界の各地で、宗教がきっかけとなった争いが絶えません。
一つの正義は、異なる正義を許さないのです。
戦前の日本がそうであったように、
幼い頃から教育によって刷り込まれれば、その正義を疑うことはありません。
人は人を人として尊敬し、大切に扱わなければいけない。
人が人の命を奪うことはどんな理由があっても決して許されない。
これが世界の共通言語として、当たり前になる世の中にしていかなければいけません。
また人の尊厳という点では、難民に対しての日本の対応の遅れも深刻です。
入管での虐待事件もあったように、前時代的なシステムがいまだに通用しています。
世界の国々で、難民の受け入れ枠をきちんと決めることも必要ではないか。
SDGsが声高に叫ばれている現代では、必要なアクションだと感じます。
― 安田菜津紀(フォトジャーナリスト)
***
人権侵害を知らせること自体が難しい、世界を動かすことはもっと難しい。その中で、ナディアさんのような被害者が声を上げることの勇気、困難、希望が凝縮された映画。
― 土井香苗(ヒューマン・ライツ・ ウォッチ(HRW)日本代表)
いくら言葉を尽くしても越えられない「無関心」の壁と闘うナディアさんの底知れぬ悲しみに言葉を失う。それでも前を向く彼女の強さに涙が止まらなかった。
― 長野智子(キャスター)
***
夢、家族、故郷、自由―、一度に全てを失った一人の村娘ナディア。「どこに行って話しをしても、奴隷だった自分しか見えない」。悲しむ人々の代弁者となった彼女の言葉と、遠くを見据える眼差しに、私たちはどう向き合うのだろうか。
― 林典子(写真家)
その他レビュー
https://unitedpeople.jp/nadia/rv